書 籍 情 報
   

アボカズヒロ:
選んだ人:シルバニアン・ファミリーズ

■『拉麺いかが!?』

  氷栗 優



慢 画 爆 弾 レ ビ ュ ー

●あらすじ

物語は学園一の"かわいい系"美少年、白藤 菫が夜食用にカップラーメンを買うところからスタートする。このカップラーメン、よく見るとメーカー名も商品名も書かれていない。怪訝に思いながらもカップラーメンにお湯を注ぐと、なんと中からは「カプーラーメン星」の王子、カンメンが現れたのだった!

しかも彼の星ではお湯を注ぐこと=プロポーズの意味があるというではないか。元々カプーラーメン星では、女性は人間と同じサイズをしているが、男性は常に小型化されていて、性交の際にだけお湯をかけて原寸大に戻されるという何とも女性上位な風習なのだ。つまりお湯を注いでしまったということは求婚もさることながら、ついては性交の意思もありということなので……。そもそもが女性嫌いだったカンメン王子にとってはまさに渡りに舟!かくして薫はカンメン王子に執拗なまでに貞操を狙われることになるのだった……。「ラーメン王子登場の巻」、「プロポーズ大作戦の巻」、「アイドルをねらえの巻」という3本の短編で構成されている。

●レビュー

関西在住の漫画家/イラストレーター、氷栗優のBL短編で、刊行されたのは1997年。作品のトーンとしては、やおい的にえぐい性愛に終始する事も耽美に走る事もなく、スラップスティック的なドタバタ劇の中で主人公の薫とカンメンがホモソーシャル的な関係を築いていくというものになっている。また、異星人に見初められ、その気がないのに執拗なまでに追いかけ回され求愛されるという作品構造は言うまでもなく「うる星やつら」の影響だ。

BL作品はそもそもがやおいの時代からある種の女性嫌悪的な側面を持っている事が多いが、この作品はそういう意味では少し異色な作品と言えるかもしれない。それは、カンメンの本来の許嫁であり、薫の恋敵ということになるキャラクター、レーメン姫の存在だ。この作品、おいしいところは全部レーメン姫が持っていってしまう。
2 話目「プロポーズ大作戦の巻」で、レーメン姫は薫とカンメンの仲を引き裂くために秘術によってカンメンと自分の体を入れ替える。こうすることによってカンメンの姿になりかわり、薫に嫌われるような事をしたり、例によって刺客を送ったりして二人の仲を引き裂こうとするのだが、カンメンの弟、タンメンの活躍によって陰謀は暴かれる。秘術を解除するためには世話係のジーヤが用意した秘薬を口移しで飲ませなければいけない。ここで薫が刺客の攻撃に身を呈しながらもカンメンに口移しで薬を飲ませる(劇中に於いて二人のファーストキスシーン)が作品のハイライトになるのだが、ここでのカンメンは、レーメン姫と体が入れ替わっているわけで、つまりBL作品なのに、絵的には男x女のフツーのキスシーンがハイライトにやってくるわけだ。

しかも1ページぶち抜きの大ゴマで。そもそもBL作品がミソジニー性を孕んでいるのは、特に思春期の少女が既存の女らしさに対し自己嫌悪を抱き、男になって男を愛したいと思うことが背景にあると言われているが、掲載誌が月刊アスカというまさにそういった年代の層をターゲットにした少女漫画雑誌なので、この展開には煮えきらない思いをした読者も当時は多かったのではないだろうか?

さらには、3話目の「アイドルをねらえの巻」でもラスボスに命を狙われるカンメンの危機を救うのは、改心したレーメン姫だ。それなのに、そこはBL物のさだめ。どんなに活躍しようが、どんなに愛が深かろうが、レーメン姫の恋は成就せずカンメンは薫の尻を(物理的にも精神的にも)追いかけ続けるのだ。これはせつない。BL物としては焦点がブレているようにすら思われかねないキャラクターではあるけれども、普段こういう文化にどっぷり使っていない僕のような人間にとっては、レーメン姫はキャラ造形もかわいいし、後半はツンデレのデレの部分もポロポロと出してくるので非常に魅力的だった。突撃パッパラ隊のランコが好きな人だったら、BLに興味がなかったとしてもレーメン姫目当てにこの漫画を読んでも良いくらいナイスなキャラだと思う。ちなみにこの漫画、3話続いて、その後も続きそうな感じでプッツり終わっているんだけれども、その理由というのが阪神大震災で被災して、こんなもの書いている場合じゃなくなってしまったからだということで……。3話目にして、せっかくキャラがグルーヴし始めたという印象だったので、後2話くらい読んでみたかったかな。そういう意味では惜しい作品だなぁ。


inserted by FC2 system